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[クライオポンプの基礎知識 2 ]

クライオポンプの基礎知識ークライオポンプの使用方法

1.クライオポンプの取付け、設置

CRYO-Uシリーズは小型ヘリウム冷凍機を使用しているため、いかなる方向にも取付が可能である。ただし、シールの磨耗の点からは同一方向で使用することが望ましい。水素蒸気圧温度計の場合はメーターの読み取りがしやすいようにポンプを配置すること。コンプレッサーユニットは圧力計のチェックができるように設置することが望ましく、水平な床面(水平±5°以内)に設置しなければならない。クライオポンプ、コンプレッサーは保守がしやすいように、その周囲に十分なメンテナンススペースが必要である。空冷式のコンプレッサーの場合、その前後に空気の流通を阻害しないように30cm以上のスペースを確保すること。また、熱交換機(ラジエター)にごみ等がつまってないか定期的にチェックし掃除すること。
フレキホースは直角に曲げるとリークが発生することがあるため、250mm以上の曲げ半径でなければならない。もし、直角に曲げる必要がある場合は、L型金具付のフレキホースや、エルボー継手を使用すること。
図1は、クライオポンプの代表的な使用例を示した場合である。この図で、粗引き圧力が40Paであれば粗引きポンプからの油蒸気の逆流は発生しないため、フォアライントラップは不要である。フォアライントラップを使用する場合は、フォアライントラップ自身の再生も時々必要となる。通常、クライオポンプ自身には電離真空計は不要であるが、クライオポンプ単体での到達圧力の確認などを行う場合には役に立つため、普段は使用しなくとも取付けておくことを推奨する。前述のようにクライオポンプはどの向きにも取付が可能であるが、大量の水を排気する場合は、再生時に溶けて液体になった水の流出先をあらかじめ考慮しておく必要がある。

図1:クライオポンプの使用例
fig4-1
H2VP 水素蒸気圧温度計 CA CA熱電対
V1 主バルブ V2 再生用粗引きバルブ
V3 真空槽用粗引きバルブ V4 粗引きバルブ
P1、P2 ピラニー真空計 P3、P4 電離真空計

2.熱源からの隔離と遮蔽

クライオポンプの冷凍能力は、機種によって異なるが1段が80Kで数十ワット、2段が20Kで数ワット程度である。一方、真空装置内には蒸発源やヒーターなどの熱源がある。
図2は、直径254mm(10型)の面から放出される輻射熱の量を示したもので、温度の上昇、輻射率の増加とともに放出される熱量も増加してくる。真空装置内で発生する熱量はクライオポンプの冷凍能力をはるかに上回るため、この熱がクライオポンプに入射すれば冷却不良となりクライオポンプは排気能力を失うことになる。このように、真空槽内に熱源がある場合は、熱源から隔離し遮蔽する必要がある。

図2:φ254mmからの輻射熱 輻射率と温度の関係
fig4-2

 

図3は熱源のある場合の取付例で(1)は輻射熱が直接入射するため使用不可である。(2)、(3)は使用可であるが、熱源の温度が高い場合は反射で入射する輻射量も計算しておく事が必要である。


図3:発熱源のある場合の取付例

fig4-3

<参考のため、クライオポンプへの輻射熱による熱負荷の計算式を示しておく。>
Q=εAV・σ・A・(Tw4-T14) (W)
εAV:平均の輻射率,σ:ボルツマン定数=5.67X10-12(W/cm2/K4),A:受熱面積(cm2)
Tw:室温壁の温度(通常300K), T1:シールド・バッフルの温度(通常80K)

3.冷却水に対する注意(水量と水質)
クライオポンプに使用されているコンプレッサーユニットには、空冷式のものと、水冷式のものとがあり、コンプレッサーユニットへの入力電力のほぼすべては熱となる。空冷式の場合は、この熱を空冷ファンと熱交換器(ラジエター)によって冷却する。空冷式の場合、冷却水を使用しないので、ランニングコストや配管工事が不要である。しかし発生する熱の全てが大気に放出されるため、空調が必要になり、騒音やダストの原因にもなるため、最近は水冷式のタイプが多用されている。
水冷式コンプレッサーユニットでは、水温が低すぎる場合、コンプレッサー内部のオイルの粘性が高くなり、起動困難や圧縮機のオーバーロードになることがある。水温が高すぎる場合や、流量が少ない場合は、圧縮機の加熱・冷却不良となり、サーマルスイッチが作動し、停止することがある。冷却水には適切な範囲があり、取扱説明書の水温と流量の許容範囲を守ることが必要である。水温が10℃以下の場合には、コンプレッサーユニットを停止したら冷却水も必ず止めること。これも起動困難の予防処置である。また、停止中に冷却水が凍結する恐れがある場合は、凍結により配管が破裂する危険があるため、エアブローを行ってユニット内に冷却水が残存しないように完全に抜き取ること。
冷却水の水質としては、配管を腐食させたり、水垢、スケール等の付着や堆積のない清浄な冷却水を使用することが必要である。水質が悪くて配管の流路が狭くなってくると、流量の低下、熱伝達不良が発生し、冷却不良の原因となる。また、配管に腐食を発生させるような水質の場合には、熱交換器にピンホールが発生し、重大事故につながる場合もある。アルバック・クライオでは、熱交換器の寿命延長、性能の保持に効果があると思われる水質基準として日本冷凍空調工業会の水質基準を参考としている。冷却水中に含まれる固形物の付着・沈殿による悪影響や、一時的な水質の悪化なども起こり得るため、定期的に水質検査を行ったり、配管の洗浄を行うことを推奨する。

表1:冷却水の水質基準(日本冷凍空調工業会の水質基準を参考)

項 目 一般用
基準値
クライオポンプ用
推奨値
傾 向
腐 食 スケール生成
 基
 準
 項
 目
 pH (25℃) 6.5~8.0 6.5~8.0
 伝導率(25℃) (μ S/cm) 800以下 200以下
 塩化物イオン Cl- (mg Cl-/L) 200以下 50以下
 硫酸イオン SO2-- (mg Cl-/L) 200以下 50以下

4.クライオポンプの運転と運転サイクル
クライオポンプの運転サイクルは次の3つの過程から成り立っている。
(1) 運転開始    クライオポンプの粗引きと冷却降下
(2) 通常運転    クライオポンプによる真空装置の排気
(3) 運転停止、再生 クライオポンプの停止と再生

1.運転開始(粗引き、冷却降下)
クライオポンプの始動は、次の手順で行う。
(1)主電源を入れる。
(2)コンプレッサーユニットが水冷式の場合は、冷却水を流す。
(3)クライオポンプ内を40Paまで粗引きする。(13~20Pa以下に粗引きすると、ロータリーポンプの油蒸気がクライオポンプに逆流し、クライオポンプ内が油で汚染される。)通常、ここで圧力上昇試験を行う。
圧力上昇速度の推奨限界値はΔP/Δt≦1.3Pa/min
(4)クライオポンプを起動する。
(5)クライオポンプが作動状態になるまで待つ。クライオポンプが作動状態になるのは、
●15Kクライオパネルの温度が20K以下
●80Kシールドの温度が130K(CA熱電対の起電力が-5.5mV)以下になった時で、この温度まで下がるのに要する時間(冷却降下時間)は機種によって異なり、表4-2のようになる。
(6)クライオポンプが作動状態になったら通常運転に入る。

表2:各機種の冷却降下時間(粗引き:40Pa)

機 種 U6H U8H U8HSP U10PU U12H U12HSP U16 U16P U20P U22H U30H
冷却時間
(分)
50Hz 80 100 110 150 85 90 110 120 160 150 240
60Hz 70 90 100 135 75 80 100 110 140 135 200

(注)クライオポンプ内が汚れていたり、熱負荷が多い場合、また再生操作等により、クライオポンプ内が完全にドライになったり、粗引後の残留気体中にHe,H2,Neの気体を分圧で約0.1Pa以上含む場合には、冷却降下時間は表の値よりも長くなる。

CRYO-U12Hの運転サイクル例
fig4-4

2.通常運転
クライオポンプが作動状態に入ったら、次の手順で真空槽の排気を行う。
(1)真空槽を最大許容交差圧力(6.5参照)以下に粗引する。(通常、粗引圧として40Paが採用される)ただし、粗引ポンプからの油蒸気が真空槽に逆流するのを防止す るため、13Pa以下にはしないこと。
(2)主バルブを開け、真空槽の本引きを行う。
(3)真空槽の圧力が所定の値に達したら、蒸着、スパッター等の所定の操作を行うことができる。

3.運転停止
(1)主バルブを閉じる。
(2)クライオポンプをOFFにする。
(3)水冷式コンプレッサーの場合は、必要に応じて冷却水を停止する。
(4)15Kクライオパネル、80Kシールドの温度が完全に室温に戻ったら、クライオポンプ内を10~100Paに粗引しておく。もし、昇温中に気化した気体によりクライオポンプ内の圧力が大気圧以上になる場合は、必ずベントバルブを設け、ポンプ内の圧力が大気圧以上にならないようにバルブを開け、気体を放出すること。

4.クライオポンプの再生
クライオポンプは貯め込み式のポンプであるため、貯め込んだ気体の量が限界に達したら外部に放出し、再び排気できる状態に戻すことが必要であり、これを再生(regeneration)と言う。クライオポンプが排気できる限界の気体の量を排気容量と言う。クライオポンプの再生が必要となるのは、次の条件のいずれか1つが成立した場合である。
(1)15Kクライオパネルの温度が20Kを超えた場合
(2)80Kシールドの温度が130K(-5.5mV)を超えた場合
(3)主バルブを閉じて5分後の圧力が1.3×10-4Pa以下にならない場合
(4)排気性能が装置のスペックを満足できなくなった時
通常の使用条件では、再生は排気した気体の量が排気容量に達した場合の他に、装置のメンテナンスなどで装置が停止する時や、休日の日などに定期的に行われるのが一般的である。休日などに無人で再生を行う場合は自動再生が行われる。

4-1.用途に応じた再生方法(完全な再生と、再生の効率化)
再生は次の3過程より成る。
(1)昇温過程
(2)粗引過程
(3)冷却降下過程
再生の時間短縮には昇温と粗引きを早くすることが必要である。再生を完全に行うためには、完全に室温まで昇温させ、効率的な粗引きを行うことにより吸着剤が吸着している水分を完全に除去することが必要である。氷は0℃以上にならないと融解しないため、水分を完全に除去するためには0℃以上に昇温させることが必要である。

(1)昇温過程の効率化
クライオポンプを停止させ、室温まで昇温させる方法には次の方法がある。
(1)自然昇温    :特別なことはせずクライオポンプをOFFにし、放置。
(2)バンドヒーター :クライオポンプを外部から加熱し昇温を早める。
(3)N2パージ    :ポンプ内部に窒素ガスをフローし内部から暖め昇温を早める。
(4)N2パージ+バンドヒーター:(2)、(3)を併用。
(5)ホットN2パージ :70℃まで加熱したN2をフロー。
(6)ホットN2パージ+バンドヒーター:(2)、(5)の併用で昇温は最も早い。
クライオポンプを停止してから室温に戻るまでの時間は、前述の昇温方法のほかに、それまでに貯め込まれた気体の量と種類、ポンプの機種によって大きく異なるため、あらかじめ昇温時間を予測することは困難である。通常、N2パージー法による昇温時間は60~90分程度が目安となり、再生方法の違いによる昇温時間の違いは次の表で与えられる。これは、N2パージー法による昇温時間を1とした場合の比較であり、やはり目安としてのみ使用すること。

表3:昇温方法による昇温時間の違い(目安)

昇 温 方 法 昇温時間の比率
 1.自然昇温 3~6
 2.バンドヒーター ~1.2
 3.N2 パージ 1
 4.N2 パージ+バンドヒーター ~0.85
 5.ホットN2 パージ ~0.80
 6.ホットN2 パージ+バンドヒーター ~0.70

 

図5:クライオポンプの昇温過程
fig4-5

右図は、クライオポンプの昇温の状態を表したもので、A,B,C,Dの4パターンに大別される。
A:N2パージ+バンドヒーター(水分が少ない場合)
シールド、バッフルは約40℃まで昇温、ポンプ内の水分が除去され、良好な再生状態が得られる。
B:N2パージのみ (水分が少ない場合)
最も普通に行われている方法で、水分が少ない場合には良好な再生が行われる。
C:N2パージ+バンドヒーター(多量の水を排気した場合)
0℃で氷が融解し、水に戻るため昇温が一時止まる。しかし、バンドヒーターで加熱されているため氷が早くとける。(基板がガラス、プラスチックの時推奨)
D:N2パージのみ、または自然昇温の場合で多量の水分を排気した場合
加熱量が少ないため、氷がなかなか水に戻らず氷の状態を維持している。このまま粗引きを行えば氷はそのまま残るため、再生不十分となり早く排気性能が低下する。ガラス、プラスチックへの成膜では特に注意が必要である。CA熱電対の起電力が0mV付近まで戻っていることを確認すること。バンドヒーターの併用が不可欠である。
特に、水分が多いと予想される場合は、再生中のCA熱電対の起電力をレコーダーに記録し、どのパターンであるかを確認し、また、氷が完全に溶けていることを確認すること。

(2)粗引き過程
クライオポンプの粗引きは、通常ロータリーポンプで行われる。ロータリーポンプを使用した場合、圧力の高い領域では空気の粘性流フラッシング作用のために逆流量が少ないが、およそ15Pa以下では粘性流フラッシング作用が減少し、これ以下の圧力まで粗引きをすると油の逆流が増加し危険である。
アルバック・クライオのクライオポンプは、さらに安全を考慮し通常の用途では40Pa の粗引き圧で性能を保証している。20Pa以下まで粗引きする場合は、フォアライントラップの使用を推奨する。ゼオライトトラップを使用した場合は、(1)粗引き時間が長くなる、(2)水が多い場合は、すぐに飽和する、(3)ダストの原因となる、(4)定期的な活性化が必要、などの点に注意すること。
クライオポンプ内に大量の水がある場合に粗引きを行うと、水の蒸発に伴い蒸発潜熱が奪われるため水の温度が下がってくる。水が少ない時は全部蒸発してしまうが、多い場合は凍結し氷となって残存することになり、再生は不完全となる。水の多い場合は粗引き中も常にバンドヒーターで加熱しておき水が凍らないようにすることが重要である。また、大量の水をロータリーポンプで排気した場合、油が乳化し40Paまで粗引きすることができなくなることがある。通常、この場合は油の交換頻度を多くすることになるが、対策としては、
(1) 油の量が多く、水処理能力が高い大型のロータリーポンプを使用する。
(2) 水と油が分離でき、水抜きがついているロータリーポンプを使用する。
(3) メカニカルブースターポンプを使用し到達圧力を下げる。(ただし、ロータリーポンプの油は定期的に交換すること。)
  などの方法がある。大量のガラス、プラスチックを処理する場合には、大量の水を処理することになるため、あらかじめこのような対策をしておくべきである。

4-2再生用のオプション機器
再生の効率アップの方法には、窒素ガスの導入、バンドヒーターによる加熱があるが、アルバック・クライオでは窒素ガスの導入用機器として再生ガス配管ユニットPR型、再生用バンドヒーターとしてはRBH型がある。また、自動再生用のコントロール機器としては再生用コントロールユニットARC型が用意されている。

図6:再生ガス配管ユニットPR型
fig4-6

図7:再生用バンドヒーターRBH型
fig4-7

図8:RBHの昇温特性

fig4-8

RBH型再生用バンドヒーターは自己制御型の発熱体を使用しているため、温度調節機が不要である。 発熱体の抵抗は温度が上昇するにつれて増大するため電流が抑制され、設定温度になるとそれ以外の昇温がなくなり、温度は一定値に保たれる。 バイメタル等の温度調節機を使用していないため、故障によりオーバーヒートすることがなく安全である。

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